1.経営事項審査の歴史

建設業法が昭和24年に制定され、それからしばらくして昭和36年に経営事項審査は法制化されました。建設投資が増大し、建設業者の社会的役割が重要な時代でした。その裏で施工能力や資力などに問題がある不適格業者が多く存在し、粗雑工事が蔓延した時代でもありました。平成6年に公共工事入札業者に対して受審義務を課し、虚偽記載に対して罰則を設けるなど手続きが厳格化され、現在の手続きの形がつくられました。

2.経営事項審査

経営事項審査は、元請業者として公共工事を受注する建設業者が必ず受けなければならないものです。各発注機関は、建設業者の入札参加資格の審査を行い、業者の格付けをしています。その格付けは、客観的事項の点数と発注機関による主観的事項の点数の二つを合算した値で決められます。その客観的事項の点数を算出するものが経営事項審査です。この審査は、「経営規模等」と「経営状況」を客観的な資料により評価し、点数を決定づけるものです。その点数のことを総合評定値(P点)といいます。

3.総合評定値(P点)

経営事項審査の申請を行うと、総合評定値(P点)が算出された総合評定通知書が発行されます。

この一枚の通知書は、5つの評価項目で構成されています。

水色の部分が総合評定値(P点)で、建設業許可業種の29業種ごとに算出されます。審査を受けたい業種を任意に選択することができます。

X1、X2、Z、Wのグループ(経営規模等)

赤(X1)、紫(X2)、黄色(Z)、オレンジ(W)の評価項目を「経営規模等」と呼びます。完成工事高(X1)、自己資本額および平均利益額(X2)、技術職員および元請完成工事高(Z)、その他審査項目(W)という評価項目になります。それぞれの点数については、管轄する許可行政庁が評価を行い複雑な計算式をもって評点が算出されます。

Yのグループ(経営状況)

緑(Y)の評価項目を「経営状況」と呼びます。経営状況(Y)は、純支払利息比率(X1)、負債回転期間(X2)、総資本売上総利益率(X3)、売上高経常利益率(X4)、自己資本対固定資産比率(X5)、自己資本比率(X6)、営業キャッシュフロー(X7)、利益剰余金(X8)という8つの評価項目で構成されており、一般的にその値はY点と呼ばれます。このY点は、建設業財務諸表を基に一定の計算式をもって評点が算出されます。Y点の算出は、経営状況分析機関が行います。分析機関であればどちらで算出しても問題ありません。


以上の5つの評価項目の点数を合算したものが総合評定値(P点)です。もちろんその値が高い建設業者が優良な会社であると客観的に認められます。この審査の結果は(財)建設業情報管理センターのウェブサイトで公表され、誰でも閲覧ができるようになります。

4.完成工事高(X1)

建設工事の売上を29業種別に算出した「完成工事高」です。建設工事の売上の大きさに加点されるもので、経営の規模を表す評価項目になります。総合評定値(P点)に占めるウエイトは25%と最も大きな割合を占めます。完成工事高5億円以下の事業者の格差が詳細に表されるようにテーブルが工夫されています。

2年平均または3年平均から有利な方を選択できます。計算式自体は至って単純で、業種ごとの平均完成工事高を該当するテーブルに当てはめるだけです。

5.自己資本および平均利益額(X2)

自己資本と利益の高さを評価する「自己資本および平均利益額」です。総合評定値(P点)に占めるウエイトは15%ですが、資本の積み上げと利益の大きさを示すとても重要な評価項目です。

自己資本額の評点は、完成工事高(X1)と同様に自己資本額を定型のテーブルに当てはめることで算出されます。自己資本額とは、貸借対照表の資産総額から負債総額を差し引いた純資産の合計額をいいます。利払前税引前償却前利益の評点についても定型のテーブルに当てはめることで算出されます。この二つの評点を合算して2で割ったものがX2の点数になります。

6.元請完成工事高及び技術職員数(Z)

元請としての管理能力を問われる「元請完成工事高及び技術職員数」の項目です。元請としての実績や施工管理体制を加点対象とする、法第1条の「適正な施工の確保」をそのまま表したような評価項目です。

元請完成工事高の評点の算出の仕方は、完成工事高(X1)と同様テーブルにあてはめ業種ごとに算出されます。技術職員数の評点は、国家資格保有者と実務経験者の人数が加点対象になります。審査基準日以前に6ヶ月を超える雇用関係にある技術者が対象となり、1人につき2業種まで加点対象にできます。

7.その他審査項目(W)

その他審査項目(W)は、かなり細々した評価項目です。加点される条件がそれぞれの項目で違っています。法令で義務付けられている社会保険や厚生年金、雇用保険の評点においては、未加入の場合減点になります。その他、建退共や法定外労災への加入などの労働福祉関係や、建設機械の台数などが加点対象になります。最近の法改正では昨今の建設業就労者の減少を鑑み、「担い手の育成及び確保に関する取組の状況」というブロックを設け、そこにワークライフバランスや建設キャリアアップシステムの実績を加点対象にするなど、時代と共に様々な変化をしていく評価項目でもあります。

8.経営状況(Y)

最重要項目の建設業財務諸表を様々な計算式を用いて評点を算出する経営状況(Y)です。

経営状況(Y)の評点を細分化した項目は以下の表のとおりになります。X1~X8の8項目にそれぞれ上限と下限が設けられています。

記号 指標 計算式 上限 下限
X1 純支払利息比率 (支払利息-受取利息配当金)
/売上高×100
-0.3 5.1
X2 負債回転期間 (流動負債+固定負債)
/(売上高÷12)
0.9 18.0
X3 総資本売上総利益率 売上総利益
/総資本(2期平均)×100
63.6 6.5
X4 売上高経常利益率 経常利益
/売上高×100
5.1 -8.5
X5 自己資本対固定資産比率 自己資本
/固定資産×100
350.0 -76.5
X6 自己資本比率 自己資本
/総資本×100
68.5 -68.6
X7 営業キャッシュフロー
(絶対額)
営業キャッシュフロー
/1億(2期平均)
15.0 -10.0
X8 利益剰余金
(絶対額)
利益剰余金
/1億
100.0 -3.0

9.点数配分

X1からWは、下記の表のとおり最高点と最低点が設けられています。それに係数をかけたものが総合評定値(P点)換算値になり、P点換算値を合算した値が総合評定値(P点)となります。

項目 評価項目 最高点 最低点 係数
X1 工事種類年間平均完工高 2,309 397 0.25
X2 自己資本額及び平均利益額 2,280 454 0.15
Y 経営状況分析評点 1,595 0 0.2
Z 技術力評点
(技術職員数/工事種類別年間平均元請完工高)
2,441 456 0.25
W その他審査項目(社会性等) 2,073 -1,837 0.15
P 総合評定値 2,159 6 1

評価項目や点数のウエイトは、時代のニーズに合わせて法改正され変容していきます。社長は経営や現場監視に専念していただき法改正などの情報収集や経営事項審査のマネジメントは当事務所にお任せください。